スク水

それは、とある夏の日のことでした。私と友人達はママチャリレースをその辺の道路で突発的に開催。ビリだった奴は罰ゲームってことになったのだけど・・・。・・・ハイ・・・見事に私が引き当てました・・・。肝心の罰ゲームの内容は後のお楽しみと言われ、2〜3日は何をされるか気が気でなく(私含めて結構シャレにならないことするメンバーだった)顔合わせるたびに内心ビクビクして過ごしてました。それから何事もなく1週間程たった頃、例のメンバーに「海に行こう」と誘われた。その頃には罰ゲームのこともすっかり忘れてた私。この時にチラとでも思い出していれば絶対に行かなかったであろうに・・・。さて、罠にはまったとも知らずにノコノコ海水浴場に現れた私を待っていたのはニヤニヤ笑いながら待ち受ける例のメンバー。「あなたのタメに素敵な水着をあげる?」と可愛い子ぶって渡されたのは二つの包み。「罰ゲーム!今日は絶対にそのどちらかの水着を着ること!」自分のマヌケさを恨みつつ、恐る恐る一方の包みを開けると・・・え?・・・なに?・・・紐?出てきたのは辛うじて大事な部分を隠せる程度の面積しか持たない凄まじく際どすぎる一品。体への自信なんか微塵もない私にとっては問題外中の問題外の代物だった。せめてこっちはマシであって!と儚い期待と共にもう一方を包みを手にとってみると先ほどのブツよりは明らかに面積がある手応え。(これならイケルかも!多少大胆にカットされてようが妙なガラだろうが紐よりゃマシ!)そう短絡的に結論づけ、即決でその包みに決めたのですが・・・。この時にせめて中を見ていれば泣きを入れることもできたかもしれないのに・・・。長くなるんで続きます。で、その包みを持って更衣室へ急いだ私。こうなれば、さっさと終わらせてしまおうと思っていたのですが包みを開けた瞬間、本気で気が遠くなってその場に崩れ落ちました。確かに・・・紐よりは遙かに面積が大きいし・・・ガラだって目を引くものじゃない。むしろ地味系・・・でも・・・でも・・・。オール紺色のワンピース、独特の質感と形状、そして胸元に貼られた名札にはご丁寧に崩れた平仮名で私の名前が・・・。そう・・・何処で手に入れたものか・・・ソレは紛れもないスクール水着でした・・・。先ほどの紐とはまた違った際どさ炸裂です。二十歳過ぎてこれを着ると?・・・狭い更衣室内で固まっている私に追い打ちをかけるようにドアがノックされ、悪魔の声が響いてきました。「それ可愛いでしょ?わざわざ大きめのサイズ探したんだからね。それがイヤなら前のにする? 両方イヤだってんならスッポンポンだからね?」ご無体にも程があります。でもここで泣こうが喚こうが無駄だと言うことは長年の付き合いで身に染みてます。選択肢は「紐」か「二十歳過ぎのスク水」か「裸」か「この場で舌噛んで死ぬ」か。死にたくないし、色々と処理してない体を晒すのも、猥褻物陳列罪もイヤ。私は泣く泣く(比喩でなく)数年ぶりのスクール水着に身を納めたのでした。更に続きます。「いやぁ〜!可愛い〜?」勇気を振り絞って更衣室から出てきた私に友達の歓声が浴びせられます。その声に周囲の視線が一斉に集まり、ある人は食い入るように見つめ、ある人は即行で目を逸らしまたある人は露骨に指さして笑ってました。恥辱です。ある意味、死刑を超える刑罰です。ママチャリレースに負けるとはそれほどの罪なのでしょうか?打ちのめされる私にはお構いなしに悪魔の執拗な追い打ちは続きます。「はい、ココで罰ゲームの内容発表でぇ〜す。」そう、スク水を纏っただけでは終わらないのです。あくまでさっきのは「フリ」だったのです。「今から1時間以内にその格好で人数分の男を逆ナンしてきてくださ〜い?」人数分・・・私含めて8人・・・少なくとも8人以上に二十歳過ぎスク水で声をかけろと・・・二十歳過ぎスク水で男を捜して砂浜を歩き回れと・・・。でも制限時間付きなら何処かに隠れてやり過ごせるかも、という考えが頭をよぎったのですが・・・。「ケータイ渡しておくから10分ごとに定時連絡入れるね。その時には自分の位置を教えて 私達からも見えるようにその場で手を振ってピョンピョン飛び跳ねてね。」甘かった・・・。悪魔の策にスキはありません。おまけに彼女達がいるのは砂浜全体を見渡せる海の家のテラス。わざわざこのために双眼鏡まで持ってきていました。誤魔化しが効きません。四面楚歌 八方塞がり 否応無し 問答無用 その時の現状を現す言葉は尽きません。私は抗う術もなく砂浜に踏み出したのでした。二十歳過ぎスク水で・・・。まだ続きます。視線が痛いというのを生まれて初めて実感しました。遠目に見れば黒のワンピース見えないこともないそうなのですが(監視してた友達談)胸元にデカデカと書かれた名札が視線を引きまくりです。周囲全てが自分を見てるような気になります。笑い声は全て自分を笑ってるように聞こえます。末期的でした。とにかく早く終わらせたかったので、とりあえず目に付いた男の子の4人組に半ばヤケクソになって声をかけました。 私「スイマセ〜ン。ちょっと良いですか?」最初に声をかけた人はギョッとした顔をしました。続いて他の人が大爆笑。もはや私も頭が麻痺しかけてたので一緒に笑いました。心で泣きながら。笑いが治まったあたりで帰ってきた返事は 男「なに?罰ゲーム?」(笑)一発で看破されました。まあ、本気でやってると思われるよりはマシですが・・・。 私「そ〜なんですよぉ〜。この格好でナンパしてこなきゃイケナイんですよぉ〜。   協力してくださぁ〜い。可愛い子ばっかりですからぁ〜。」ヤケクソも極まって、普段なら絶対にしないようなブリっこで誘いかける私。男の子達もまんざらでもない様子。(よっしゃー!これで一気にノルマ半分達成!)と内心で喜んだ瞬間、いきなりの呼び出しコール。出てみればケータイから響く悪魔の声音。 「いやよ、そんなブサ男達。もっとカッコいいのにしてっ!  そこからもうちょっと行くとイイのがいるから捕まえて!!」どうやら彼女達は私を監視しつつ、品定めも同時進行しているようでした。男の子達に丁寧にお詫びをし、そこから先はケータイという鎖に繋がれた犬のように彼女達の指示にしたがって声をかけ続けました。もはやその頃には、涙も羞恥心も枯れ果てていました。スミマセン、もうちょっと続きます。人間、開き直るとある意味強くなれるものです。時にはブリっこ、時にはアホな女、時には平然と、キャラを次々と変えてナンパを繰り返した私。驚くべきコトに、なんとヒット率は9割超。制限時間に充分な余裕を残してノルマを完璧達成してしまい、帰還した時には待っていた友人達+一緒に見ていた獲物達(ナンパした男)から「逆ナンの神」呼ばわりされました。「まあ、ざっとこんなもんでしょ。」と開始当初とはうって変わって得意げだったものの心の中では『なにやってんだか・・・』という寒々しい虚しさが吹き荒れていたのでした・・・。それから数日後、恥ずかしさの余韻もようやく消えかけた頃にまたもや例の友人達から声をかけられたのです。 「ねぇ、今度もう一回海に行こっ!」嫌な予感がしました。恐る恐るもうスク水はイヤだという意志を伝えたところ彼女達は笑いながら「大丈夫、大丈夫」とのことその言葉に私も一瞬ホッとしたのですが、次に発せられたのが「今度はみんなで着て行くから?」丁重に、しかしキッパリお断りさせていただきました。