おばさんは名実況アナ

もう20年以上前の高一の夏休み。家風呂が壊れた私は銭湯へ行った。一人で外湯へ入るのは初めて。早い時間だったので、他にほとんど客はおらず、大きな湯船にゆっくりつかりちょっぴり大人気分に浸っていた。 すると、まあ「酒屋の智子ちゃん(仮名)」と、女湯からおばさんの声。同級生が入ってきたらしい。おっとりとした性格で、同性からも好かれる子。背が高く、ちょっとTBSの久保田アナに似ている感じです。 二人の会話から、彼女は店舗兼自宅の建て替えのために仮住まい中だが、風呂の調子が悪く今日だけ銭湯に。幼いころから店番をしている彼女は、近所でスナックを経営しているおばさんとは顔見知りらしい。 しばらく世間話をしていたが「すっかり大人になったわね」と言う何気ない一言から、話は急展開を始めた。「おっぱい、大きいわね。若いっていいわ。乳首もきれいなピンク色ねえ」。耳は当然ダンボ。ようやく生え始めムケはじめの下半身のゾウさんも、その一言でスイッチが入った。そのゾウさんを押さえつつ、もっと良く聞こえるように、と髪を洗う振りして壁際に。「おばちゃんが背中流してあげるからこっちおいで」、しばらく押し問答が続いたものの、根負けしたらしい。しばらくたわいのない会話が続く。ドアの開閉音や、他の声が聞こえないことから女湯は二人だけになったらしい。いいかげんのぼせかけたころ「いつからおっぱい大きくなったの」「何カップ」矢継ぎ早の質問が始まった。「5年生ごろ。最近Cカップになりました」と素直に答える彼女。ゾウさんが再起動した。「でも毛は薄いから、水着のときも困らないわね。お湯から上がるとき、ちょっと中身見えたわよ。まだ処女よね。使ってないからとてもきれいだわ」。今思うとそんなもん一瞬で確認できるわけもない。きっと純真な乙女をスナックママのおばちゃんがからかったのだろう。でも、そのときの私には十分過ぎる。その後もほめているつもりで実況を続けるおばちゃんに、もうゾウさんは限界まじか。そのとき「キャッ」と小さな悲鳴。「やわらかいわね。まだ少し固いけどもみがいあるわ」。スケベでいたずら好きのおばちゃんありがとう!代わりにおっぱいの感触まで確かめてくれて。 これでおかずには当分こまらん、早く帰らねば。と立ち上がろうとするが、ゾウさんが言うこと聞いてくれない。気を落ち着かせようとしばらく湯船につかっていた。この先の展開など知る芳もなかった。  もう、いいだろうと前を隠して脱衣所へ。そそくさと着替え外に出た。「カラン、カラン」。出入り口の鈴が二つ鳴った。何気なく振り返ると、「女」と書かれた扉の前に彼女。私の姿を見た彼女は、ついたて越しに会話が筒抜けだったことを悟ったらしい。いたたまれなくなったのか、彼女はサンダル履きで駆け出そうとした。 次の瞬間、前のめりに思い切りこけた。助け起こそうと反射的に駆け寄り、中腰になった私。 数十センチ先には、おばちゃんが実況してくれたよりも何倍もきれいな胸がゆっくりとゆれていた。銭湯と仮住まいがごく近かった彼女は、ノーブラで胸元の緩い服を着ていたのだ。想像でしかなかったものが、目の前に当然現れた瞬間、ゾウさんが暴発した。後にも先にも一しごきもせずに発射したのはこのときだけだった。 「見えた?」あせってるのか、服に付いた汚れをあたふたと手で払いながら聞く彼女。「見てない」(君がかがむから今もチラチラ見えてる)。「聞こえた?」。首をブルンブルン振る私。「嘘つき!」。真っ赤な顔をした彼女がキッとにらんだ。狼狽する私。次の瞬間、私の口に彼女の人差し指が優しく押し当てられ「秘密よ」と言うと、そのまま、今度は少しだけ慎重に走り出した。しばらくしてわれに返った私は、自転車に乗り、隣町の銭湯へ走った。暴発したゾウさんをきれいにするために。  夏休み後、何事もなかったように接してくる彼女。でも心なしか以前より親しげになった。時折目が合うと、周りの誰も注目していないのを確かめて今度は自分の唇に人差し指を押し当てて、にっこり微笑むようになった。 結局、それ以上のことは、なんにもありませんでしたが、高校時代の淡い思い出です。