かけ違えたボタン

M樹と会ったのはアルバイト先、もう6年も前のことになります。M樹は俺の2歳年上で、少々勝気な子です。でも、仕事上では俺の方が上で、彼女は一応部下みたいなもの。そのM樹とのことを書いてみたいと思います。具体的な会話が少ないのは、俺の記憶が薄れているのと、脚色できるだけの妄想力?がないこと、そしてなにより、会話が少ないことがM樹とのやりとりで特徴的だったからです。当時はM樹には彼氏がいて、俺にも彼女がいました。M樹の彼氏は優柔不断なやつらしく、シーズンスポーツ関係の仕事が夢なのはいいんだけど、その仕事が無い時期のこととかを考えないやつだそうで、そのあたりがM樹は不満らしく、いつもプリプリ怒ってた。でも、俺はM樹が怒っているのは別に嫌いとかいうんじゃなくて、まだそいつのことが好きだからだと勝手に思ってた。M樹は一般的に言って美人だとか、可愛い子というわけでもない。でも、身長はまあ高く、スラっとした感じ。運動好きなので引き締まってる。一方で、すごく勝気で、会話では常に突っ込み役にまわる。でも、同時にすごく人懐っこいし、みんなから愛されるキャラだった。お互い付き合ってるやつがいたから、当時は付き合うなんて対象ではなかったけど、今考えると、何かきっかけがあれば、いつでも好きになったと思う。実際、その後に好きにはなったのだが。M樹は彼氏とシーズンスポーツの仕事で知り合ったせいで、俺のアルバイトを半年でやめた。でも、そのシーズンが過ぎると、またバイトに戻ってきた。バイトのみんなは、よく戻ってきたね、といった感じで歓迎ムードだったが、俺はなんだかそういうのが照れくさくて、特に喜んだ様子もみせずに、半年前と変わらない感じであしらって、M樹が帰ってきた日を過ごしてしまった。M樹は裏で、「何なのよ、あれ」って言ってたみたいだけど、お互い意識してたんだと思う。程なくして、俺がバイトを辞め、M樹とも会うことはなくなった。でも、バイトをやめたことで、お互いの私生活での連絡先を初めて確認しあい、その後連絡をとりあった。まあ、基本的には友達として。特に男女関係の話はなかった。俺がバイトをやめて、ちょっと離れた場所にいたのもあって、特に会おうという話にはならなかった。しばらくして、そのバイト先で俺とM樹両方に親しかったAさん(女性)という人が3人で飲もう誘ってきた。Aさんとは飲んだことはあったが、M樹とはそのときまで飲んだことはなかった。俺は、何も考えずにOKし、3人で渋谷で飲むことになった。しかし、当日待ち合わせ場所に行くと、M樹しか来ていない。おかしいな、この3人だとM樹が一番遅れるタイプなんだけど、と思ってM樹に話しかけると、Aさんは来れなくなったと言う。そのときはそっか、と言い、飲み屋に向かったが、今考えるとはめられていたんだと思う。M樹と二人で入ったのは、堀コタツのようなタイプの和風の居酒屋。カウンター席で並んで座った。最初は近況を話し、彼女が彼と別れたことを聞いた。まあ、彼氏が適当で優柔不断なやつだったから、それは当然かなと思い、いろいろ話を聞いてやった。そのころ、俺は付き合っている子はいたものの、その子はその子ですごく精神的に不安定で、俺はその子と付き合うのに疲れつつも別れられない、そんな感じだった。同じような境遇同士ということで、お互いの愚痴話に花を咲かした。でも、冷静に考えると一番大事なことが違っていた。多分、あのときは酔ってたんだと思う。M樹は彼氏とは終わってて、俺はまだ終わらす決心すらついていないこと。M樹はAさんを使って俺にアプローチしようと考えていて、俺はそんなことは全く考えていなかったこと。しばらくして、終電間近になってきて、俺は時計をちらちら見始めた。彼女は何にも言わないので、俺から「もう終電やばくない?」と言おうと思ったとき。彼女の足が掘りコタツの中で俺の足に絡まりついてきた。俺は止まった。正確には、俺の頭は止まってなかった。むしろ、瞬時に、何が起きたのか、彼女は何をしたいのか、どうして今日は2人で会うことになったのか、彼女が俺のことをどう思っているか。その他のそれまでのいろんな行動が、全てがわかった気がした。俺も自分の今までの行動が彼女を意識したものだと、そのときわかった。直感的に今日は帰れないと思った。彼女の顔を確認することも無く、そのままの姿勢で話し続けた。特に話題も変わらない。でも、完全にそれ以前とは違った状況になったのをお互い気付いていたとは思う。そのまま終電の時間が過ぎた。何事も無かったかのように、二人で店を出る。宮益坂の方の交差点からハチ公口の交差点へと歩き、そのガード下に差し掛かったところで、どちらからということもなく、ごく自然に手が当たり、手をつないだ。それからすぐに足が止まった。カウンター席にいたせいでお互いの視線を確認していなかったのだが、ほぼ初めてじっと見つめあった。気付いたらキスをしていた。渋谷のガード下、人がひっきりなしに往来するのも構わず、お互いの舌をむさぼりあった。サラリーマンから冷やかしの声を受けても、全然気にならなかった。俺はM樹を抱くことをいまだに避けようと、もう1軒飲み屋に行ったが、結局抱かずに帰ることはできなかった。入った飲み屋ではお互いの顔すらまともにみれず、1時間もしないうちに、出ることになった。言葉では確認しなかったけど、二人とも気持ちは同じだっただろう。完全にスイッチが入ってしまっていたと思う。土曜の夜、ほとんど満室のラブホテル街へと向かった。やっと1軒のホテルに入ることができたとき、もう何もためらうことはなかった。部屋に入ると同時にキスをした。お互い舌を絡めあって、気持ちを確認しあう。コートをお互いに脱がせつつ、ベッドに転がり込む。冬だったので、お互い手は冷たかったけど、気にする余裕は無かった。夢中で体をむさぼる。いつもよりも愛撫は強い。普通の状況なら、痛いって言われるくらいだったと思うけど、あの時はそれでちょうどよかった。M樹は俺の肩を噛み、背中に爪をたてた。痛く無かった。いや、痛みが痛みじゃないみたいで、正直気持ちよかった。何もしていないのに、彼女のあそこは濡れ、俺のも限界に近かった。フェラも無く、胸やあそこへの愛撫もほとんどなく、服を着たまま挿入。お互い顔を一瞬見合わせたけど、何も言わずに、背中に手を回し、ぎゅっとくっついた。そのまま激しく動くと、数分して程なく射精感。興奮しきっているから、そんなにもたないようだった。彼女ももう軽くは何度かイッてしまったようだった。何度か小刻みに締め付けられる。そのせいで、俺が少しゆっくりペースをゆるめようとすると、「いいよ、きて」と言った。飲み屋を出てからほぼ初めての会話。M樹の足が俺の足にまた、絡まっている。俺はペースを緩めずに動き、そのままM樹の中に出した。俺の体がビクンビクンいってて、すごい量が出ているのがわかる。M樹も、その間中、ぎゅっと抱きついている。おれの動きが止まっても背中に回した手を緩めない。そのまま、しばらくすると、また俺のが大きくなったが、動かさずに繋がっている感触を確かめていた。長時間かけてゆっくり動かし、お互いの感触を確かめた。2回目の最後は、1時間くらいして彼女が腰を少しだけ動かしたとき、急に射精感が高まり、今度はゆっくりとした、深い射精。どちらからともなく離れ、抱き合いながら、そのまま寝てしまった。朝起きても、特段変わったことはなかった。飯を食って、昨日のことには触れずに会話。でも、別れる直前、彼女は俺にこう聞いた。これが唯一のまともな会話。「彼女とは別れるよね?」俺は答えられなかった。そのことを忘れていたわけではない。でも、精神的に不安定な彼女を捨てると嘘でも言えなかった。M樹と付き合えたら、どんなにいいだろうと思ったけど、何にも言えなかった。優柔不断だったのは、M樹の彼だけでなく俺もだった。無言の時間が続き、M樹は「わかった」と言い、帰っていった。結局、最初の飲み屋でかけ違えていたボタンは、最後まで掛け違えたままだったのだと思う。M樹の足が俺の足に絡まったとき、その後の無言の時間は相手が何も言わなくても、相手の考えていることがわかっていた。少なくとも、わかっていたつもりだった。でも、きっと一番深いところでは違ってたんだと思う。それは俺のせいだ。それ以来M樹とは会っていない。あれほど会話をしないでエッチになだれこんだのは後にも先にもあの時だけです。それだけに、ちゃんと付き合えてればよかった、と今でも思います。